プロジェクトストーリー②
発展途上の市場として可能性を秘めた北海道での挑戦が始まった…。
坂角には、『ゆかり名古屋黄金缶』、そして『東京 芝えび天』と呼ばれる商品がある。これらは、それぞれ名古屋限定、東京限定商品として、お土産用に購入してもらうために開発されたものだった。お客様が大切な方を喜ばせるために選んでほしいという思いから、素材や味はもちろん、高級感のあるパッケージデザインにもこだわっている。お土産としてのステータスを高めたこの取り組みは成功し、坂角にとって新たな市場となったターミナル駅の売店で人気を博している。こうした経験を踏まえ、坂角は新たなお土産の販路開拓を模索していた。そしてマーケティング部が目をつけたのが、以前から魅力的な市場を持つとみられていた“北海道”だった。北海道では札幌の百貨店に3店舗を構え、まだまだ伸びしろがあると考えられていた。さらに、まだ地域限定商品を開発していなかったことから白羽の矢が立った。
これまでの商品にはなかった濃厚な味わいと香ばしさへの挑戦。
まずマーケティング部の商品開発課が目をつけたのは、以前から既存商品の原料として使用していた甘えびだった。「北海道の甘えびを使ったせんべいなら、北海道土産としての必然性がある」と考えたメンバーは、甘えびにどのような加工を加え、どのような製品にするかを模索した。それまでの既存商品では、甘えびのおいしさや高級感を最大限に引き出すために、姿焼きにしていたが、より濃厚な味わいを醸し出すことが必要という結論に達した。そこでメンバーたちは、甘えびのうまみを凝縮する方法を考案。さらにそれを天ぷらにすることにより、香ばしさを演出した。「これならいける!」と確信したメンバーたちだったが、他社の北海道土産との差別化や、量産に向けて課題や不安がないわけではなかった。そして製造部との共同作業が始まる。
実に半年の期間を要した試作。試行錯誤を繰り返す日々…。
製造部に『北海道甘えび天』開発の一報が入ったのは、発売予定日の約1年前だった。まずは商品開発課がまとめた企画について情報共有を行い、商品概要を理解してから現場のスタッフに伝えた。商品開発課から試作と量産化に向けた依頼を受けたとき、地域限定商品という、小規模で非効率と思われる開発に一抹の不安がよぎったが、すでに小ロット多品種の製造についてノウハウを持っていた製造部では、一人ひとりのスタッフが開発の意図や必要な作業について理解した。まずはどのようにつくるか、生産量や生産時間との兼ね合いを考えながら量産化するための方法を考えなければいけない。製造には、『ゆかり』を製造する機械とほぼ同じものを使って行われることになった。しかし、甘えびを加工して焼成すると、鉄板にくっついてしまうという課題が浮き彫りになる。原料の加工の仕方や温度などを変えて試行錯誤を繰り返し、試食できる製品ができるまで実に半年の期間を要した。
真の“顧客満足”を追求するために高品質と高生産性を両立。
試作がうまくいったからと言って、すぐに量産化にこぎつけられるわけではない。品質の再現性を高めなければならないし、採算性も考えなければならない。実際に、量産化をシミュレーションする段階で、製品不良が頻発した。焼き上げられた生地をさらに揚げる工程で、どうしても反りが発生してしまったのだ。ここでも期間を費やし、試行錯誤を繰り返した。そして生地が膨らむ瞬間を制御することにより、反りを防ぐことに成功した。また、原料である甘えびのうまみを逃がさない方法も考える必要があった。製造部のメンバーたちは、甘えびの特性と加工方法を徹底的に研究し、トライ&エラーを繰り返した。そして開発当初から目指していた、最高の味を安定的に量産する方法を考案。天然素材の味を十二分に引き出すことができるようになった。
名古屋の銘菓が北海道ブランドとして受け入れられた日。
量産化の目途が立とうとしていた2013年の5月、いよいよ発売に向けて販売現場が動き出す。マーケティング部から新製品の概要を知らされた東京支社の各務は、札幌地区の百貨店を担当するスーパーバイザーとして北海道での販売計画を任された。しかし各務は、のちにこう語っている。「新製品ができて試食をしたとき、そのおいしさに驚きました。しかし北海道には、すでに全国的にブランドが定着している北海道メーカーの製品があります。名古屋銘菓の商品が北海道土産として認知され定着できるか疑問がありました。」この不安を払拭するために、各務は札幌の3百貨店の販売員に新製品を試食してもらい、人気が出る可能性を探った。その結果、好評を得ることができた。そこで各務は、販売額の見込みを試算してレジュメをつくり、百貨店のバイヤーや売り場担当者に積極的に売り込んだ。「必ずや、北海道甘えび天を北海道の地域ブランド商品として定着させてみせる」という強い思いが各務を奮い立たせた。そして2013年5月、発売。多くのお客様に試食してもらい。口コミでの評判を狙った結果、人気が高まった。さらに、百貨店側が目玉商品として宣伝してくれたこともあり、売り上げは当初の見込みを上回った。発売から1年以上が経過した今も売り上げは伸びている。
坂角の未来を切り拓くために、お客様にもっと喜ばれる商品を。
しかしこのプロジェクトの成功は、新たな課題を浮き彫りにした。2013年の12月から2014年の1月にかけての繁忙期に受注が殺到し、生産が追いつかなかったのだ。見込みの倍近くの商品が売れるという好機が訪れたものの、そのすべてに対応することができなかった。また、販売現場の見込みを超えてしまったことにより、製造現場に負荷をかけてしまうという事態にも見舞われた。うれしい悲鳴ではあるが、売り逃しという痛恨のミスを犯してしまったのだ。この苦い経験を踏まえて、坂角では販売戦略や生産体制を見直し、新たな商品開発に向けてすでに動き出している。お客様にもっとも近い場所にいる販売スタッフから寄せられる「こういう商品があったら売れる」という意見に耳を傾け、今後もその地域ならではの付加価値を提供していきたいと考えている。坂角に進化が求められているときに『北海道甘えび天』が生まれたように、坂角の社員たちは「坂角の未来を切り拓く新商品をお客様に提供していきたい」という情熱を胸に、今日も全国各地でそれぞれの使命を全うしている。
このプロジェクトを経験して・・・
贈られる人も贈る人も幸せにできる商品をつくりたい。
私はこれまでの商品開発経験の中で、坂角が掲げる“贈答文化”の素晴らしさを学びました。贈り物は、受け取った方を喜ばせることはもちろんですが、商品が魅力的なものであれば、贈った方にも喜んでいただけます。一つの商品でさまざまな方を喜ばせられるこの仕事は、とても意義深いものではないでしょうか。これまでに蓄積した経験やノウハウを活かしながら、「おいしい」という感動と笑顔を届けられる商品づくりをしていきたいと思います。
お客様のどのようなオーダーにも応えていきたい。
北海道えび天は、今もなお進化を続けています。「もっとお客様に喜ばれる製品にしたい」という思いが、現場に工程の改善を促し、製造スタッフたちのモチベーションを高めています。今回のプロジェクトを通じて私たちは、どのような商品企画に対しても製造現場としてひるまない精神を養うことができました。今後はマーケティングや販売といった他部署と連携しながら、姉妹商品である北海道帆立天の改良にも力を入れ、お客様の期待に応えていきたいと思います。
まず自分が動けば、人は必ず動いてくれる。
このプロジェクトを通じて、私は自ら主体的にアクションを起こすことの重要性を学びました。それまでは本社や本社工場とは物理的なこともあり、意思疎通の面で距離を感じるときもありましたが、情報共有や意見交換に関するアプローチを積極的に行ったことにより、社内の他部署と連携している実感を得ながら、これまで以上に結束を強めることができたと思います。