プロジェクトストーリー①
数多の銘菓が群雄割拠。日本有数のお土産激戦区・大阪。
看板商品の「ゆかり」が、定番の贈答菓子として広く認知されている坂角総本舗。創業から130余年の歴史と伝統を誇る老舗ではあるものの、発祥の地・名古屋以外での知名度や販路拡大には課題があった。そこで坂角は、伝統に縛られない発想で新商品の開発に乗り出す。東京や北海道で好評を博し、新たな看板商品となった地域限定シリーズの誕生である。スーパーバイザーの奥田率いる大阪支社の営業部でも、地域での新たな活路を見出す挑戦が求められていた。当時、大阪支社が管轄する大阪圏では、名古屋や東京に比べて坂角の知名度が低かった。さらに数多の種類の銘菓が群雄割拠して入り乱れ、人気商品の「ゆかり」でさえも、それらの牙城を崩すことは容易ではなかった。こうした現実をいち早く痛感したのは、店舗のスタッフたち。その危機感が、支社の営業部で店舗の統括を務める奥田に伝えられたのだ。
大阪らしく、坂角らしいものを。大阪限定の商品開発、始動。
そして現場の焦りにも似た訴えが、奥田を動かす。「大阪限定の人気商品を開発しよう」。そう奥田が決心するまでに時間は掛からなかった。かつて、とれたての甘えびやホタテを使った商品が、北海道で大ヒットして定番化したように、大阪ならではの素材のうまみが光る商品をつくる。それが奥田の、いや大阪支社に所属する社員全員の目標となった。奥田の呼びかけに賛同したマーケティング部の吉田や販売の田上などが集まり、部署の垣根を越えて“チーム大阪”が結成された。まずメンバーたちが思案したのは、どんなコンセプトで新商品を開発するかということ。「坂角といえば、えび」というブランドイメージと強みがあるが、「大阪らしさ」も忘れてはいけない。しかし、いわゆる“大阪らしい”銘菓は無数に存在する。「坂角ならではの大阪らしさの形とは?」その答えを導き出すために、彼らの話し合いは続いた。そして彼らは、ある答えを導き出す。それは「いか」だった。
人々の既成概念を打ち破る、定番素材のおいしさを新発見。
大阪には、市民のソウルフード「いか焼き」がある。しかも坂角には、海鮮のうまみを最大限に活かす加工方法がある。大阪の人々になじみのある素材で、これまでにないお菓子をつくることができれば、必ず大阪銘菓の新勢力に躍り出ることができる。そう確信した奥田たちは、新商品の発売日を1年後と定め、開発に着手した。彼らが目指したのは、百貨店で贈答用として購入してもらうために、ビジネスシーンでも安心して利用できる見た目の高級感と、本物志向の大人に受け入れられるシンプルで深い味わい。さらに、既存商品に埋もれない新しいインパクトが必要だった。そこで彼らは、大阪の人々のイメージを覆す秘策に打って出る。大阪でいかを使った料理といえば、いか焼きにいか焼きそばが代表的だが、いずれも味つけはソースだ。大阪で定着している「いか=ソース味」という概念を打破して、新しい味わいが受け入れられれば、成功は間違いない。ソースに代わるいかと相性の良い調味料や食材が吟味された。そして開発メンバーたちは、大葉に着目する。香り豊かでさわやかな風味を演出してくれる大葉を使用することで、素材のうまみを引き出し、洗練された大人の深い味わいを実現することができた。しかも噛めば噛むほど味わいが増すように調味し、何枚食べても飽きない工夫を施した。
絶対に失敗できないという強い思いが、かつてない原動力に。
しかし、非の打ちどころがないように思われる商品でも、プロジェクトチーム内には不安がくすぶっていた。他県から訪れた何百万もの人々が行き交う大阪で、本当に注目される人気商品になれるのか。すでに坂角では東京と北海道で地域限定シリーズを成功させているだけに、失敗できないという思いもあった。「商品には絶対的な自信がある。だからこそ多くの人に知ってもらうための努力をしよう」。そう考えた奥田たちは、百貨店のバイヤーに新商品をPRするための企画書を作成し、試食用の商品を持参して売り込みに回った。新商品に対する評価は上々で、多くのバイヤーから「素材のうまみを十分に引き出している。坂角らしい」との太鼓判を得た。さらに、店舗ごとに作成した顧客リストをもとにDMを発送し、個人のお客様にも新商品の魅力を伝えた。
狙いが功を奏して大ヒット。1年間の売上目標を5ヶ月で達成。
そして、ついに、その日がやってきた。大阪限定の新商品『大阪いか天』の発売日である。発売の1ヶ月前からプレスリリースを出し、百貨店のチラシへの掲載交渉などを行った。そして今回、特に注力したのは、現場での商品プロモーションだ。新商品を大阪土産として定着させるためには、現場の販売スタッフによるアピールが欠かせないと考えた。そのため、阪神百貨店梅田本店の田上をはじめ販売スタッフもプロジェクトチームに抜擢。これまでの地域限定シリーズでは、本社主導で商品企画とセールスプロモーションの施策がなされたが、今回のプロジェクトでは大阪支社の営業と販売が主体的にプロジェクトに関わり、試食の勧め方や、売場でのセールストークを考え、スタッフに研修を行った。これらの準備には、過去に成功させた地域限定シリーズの経験も大いに活かされているという。蓄積されたノウハウを地域を越えて共有できている点も、坂角ならではの強みと言えるだろう。発売後は、テレビの情報番組で紹介されたこともあり、国内外から訪れたお客様たちで連日大盛況。予想を大きく上回る3万個が売れ、発売からわずか5ヶ月で1年間の売上目標を達成した。SV、販促企画、販売が三位一体となってアイデアを出し合い、それぞれの領域でベストなパフォーマンスを尽くした挑戦の成果は、想定外の達成感となって返ってきた。「これを皮切りに大阪圏で坂角ブランドを不動のものにしたい」。そう熱く語る奥田たちの視線の先には、すでに次の挑戦が見えているようだ。
このプロジェクトを経験して・・・
大阪の誇りになれる商品づくり。それが私たちの使命だと気づきました。
今回のプロジェクトは、単なる新商品の開発プロジェクトではありません。坂角ブランドの知名度や評価を大阪の地で高めていくための挑戦であり、大阪に新しい銘菓をもたらした挑戦でもありました。大阪の人々が誇りに思える商品づくり。そして、大阪を訪れた人やお土産を受け取った方が、幸せな気持ちになれる商品づくり。この思いを忘れなかったことが成功につながったのだと思います。
「このおいしさを知ってほしい」という思いが、大切なんだと実感しました。
完成した商品をはじめて口にしたとき、「これは売れる!」と確信できました。同時に「こんなにおいしいんだから、多くの人に食べてほしい」という思いも抱きました。だからこそセールスプロモーションは考えに考え抜いて、戦略的に行いました。売れるチカラを持つ商品が、ちゃんと売れるためには、持っている魅力を丁寧に伝える努力が必要だと、あらためて感じるプロジェクトとなりました。
商品開発の舞台裏を経験して、販売スタッフの重要性を再認識しました。
新商品の開発や、セールスプロモーションに携わったのは、今回が初めてです。本社や支社の営業部やマーケティング部と連携して、発売前から準備してきたことで、私自身も『大阪いか天』のファンになりました。今回の経験を通じて、どの商品も多くの人の努力によって生み出されていることを実感できました。今後もお客様とダイレクトに接する販売の役割と責任の大きさを忘れずに、丁寧に仕事をしていきたいと思います。